契約と権限の棚卸しはAIを抽出係にして進める

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契約と権限の棚卸しはAIを抽出係にして進める

AIを使ったシステム移行時の契約・権限・窓口棚卸し管理表の作り方

システム移行で最初に詰まるのは、新システムの設定ではない。今あるツールを、誰が、何の契約で、いつまで、どの権限で使っているかを説明できないことだ。契約書はPDF、更新条件はメール、管理者はチャット、問い合わせ先は誰かのメモに残っている。これを人力だけで拾うと、抜けと転記ミスが出る。

私はこの手の棚卸しでは、AIを「判断役」ではなく「抽出係」として使う。先に材料を整え、同じ型で抜き出させ、最後は原本で確認する。この記事では、契約、権限、窓口を一枚の管理表に寄せる手順を書く。

先に集める情報を決める

棚卸しで欲張ると失敗する。最初から運用ルール、費用対効果、移行優先度まで全部入れようとすると、管理表が会議資料の寄せ集めになる。まずは移行判断に必要な項目だけに絞る。

最低限見るのは、ツール名、用途、契約開始、契約終了または更新期限、管理責任者、利用権限、保守窓口、金額の有無、原本確認の要否だ。金額そのものを外部AIへ入れてよいかは別問題なので、ここでは「金額A」のようなラベルで扱えばよい。

集める順番も決めておく。契約書や稟議のような正式資料を先に置き、その後にメール、チャット、管理画面メモを足す。後から出てきた断片は、どの正式資料を補っているのか分かるように並べる。これをしないと、AIの出力以前に、人間側が根拠を追えなくなる。

私が一度やらかしたのは、管理者の記憶だけで権限一覧を作ったことだ。会議では通ったが、移行前日に退職者の管理者権限が残っていると分かった。契約期限も、メール本文の「来年度も継続予定」をそのまま信じてしまい、実際の自動更新日とずれていた。以後、AIで抽出した表には必ず原本確認欄を入れている。

AIに渡す前の加工ルール

AIに入れる前に、社名、個人名、製品名、金額、日付をそのまま渡さない形に加工する。外部AIに入れてよい範囲は会社の規程で確認する。伏せ字にしたから安全だ、という考え方は捨てる。匿名化しても、文脈や組み合わせから再識別できる可能性は残る。

加工の目的は、機密を守りながら文章の構造を残すことだ。社名は「ベンダーA」、製品名は「ツールA」、個人名は「管理者A」、金額は「金額A」と置く。日付は消してはいけない。契約の開始と終了を見たいのだから、「2024年4月1日」→「契約開始日A」、「2025年3月31日」→「契約終了日A」とし、順序と期間の関係を残す。

メールやチャットを貼るときは、あいさつ、署名、雑談を削る。契約条件、権限、窓口に関係する文だけでよい。AIは長文を読めるが、関係ない文章を混ぜるほど抽出の精度は落ちる。

加工後の本文には、元資料へ戻れる手がかりを自分用に残す。たとえば「契約書Aの第3条」「メールAの2通目」のようなラベルを先頭に付ける。AIに秘密の原本を渡すためではない。出力された行を見たとき、人間がどの資料を確認すればよいか迷わないようにするためだ。

コピーして使うプロンプト

材料を整えたら、次のプロンプトを使う。出力を表にする指示は入れるが、推測させないことを明記する。特に契約期限、金額、管理者は、AIが補完すると実害が出る。

あなたはシステム移行準備の事務局担当です。

以下の匿名加工済みテキストから、ITツールの棚卸し管理表に必要な情報だけを抽出してください。

出力項目:
ツール名 / 用途 / 管理責任者 / 契約開始 / 更新・契約期限 / 利用権限 / 保守・問い合わせ窓口 / 金額情報 / 原本確認の要否 / 備考

ルール:
- 本文に書かれている情報だけを使う。
- 不明な項目は推測せず「不明」と出す。
- 根拠が本文にない情報は補完しない。
- 1つのツールにつき1行で整理する。
- 契約期限、金額、管理責任者、権限、窓口の根拠が弱い場合は、原本確認の要否を「要」とする。
- 出力はMarkdown形式の表にする。

入力:
[ここに匿名加工済みのメール、契約書抜粋、チャット本文を貼る]

AIの出力例は次の形で十分だ。

ツール名用途管理責任者契約開始更新・契約期限利用権限保守・問い合わせ窓口金額情報原本確認の要否備考
ツールAプロジェクト管理管理者A契約開始日A契約終了日A管理者Aが管理者、利用者Bが一般利用ベンダーA窓口金額A自動更新の記載あり
ツールBファイル共有不明不明契約終了日B部門管理者のみ変更可能不明不明チャット本文に権限だけ記載

よくある失敗パターン

失敗パターンは、百ページのマニュアルや大量のメールを一度に渡して「管理表を作って」と頼むことだ。AIは何かしら表を返すが、契約条件ではない技術仕様を期限のように扱ったり、問い合わせ先らしい文言を保守窓口として拾ったりする。出力が整っているほど、人間は確認を飛ばしやすい。

もう一つの失敗は、匿名加工の時点で意味まで削ることだ。日付を全部「日付」と置き換えると、開始日と終了日の関係が消える。担当者も全員「担当者」にすると、管理者、承認者、利用者の区別が消える。AIに渡す前の加工は、隠す作業ではなく、構造を残して置き換える作業だと覚えておく。

出力後の確認では、空欄を埋めることより、危ない確定を消すことを優先する。「不明」と書かれたセルは調べればよいが、根拠のない期限や窓口が確定値のように入っていると移行計画を誤る。だから原本確認の要否は、最後の列ではなく、作業指示そのものとして扱う。

方法Aと方法Bの使い分け

方法Aは手入力だ。対象ツールが五つ以下で、契約書、稟議、管理画面の情報がそろっているなら、最初から人間が表に入れたほうが早い。AIに読ませる準備のほうが重くなる。

方法BはAI抽出だ。対象ツールが十を超え、メール、チャット、PDF、メモに情報が散っているなら、AIで下書きを作る価値がある。ただし、AIの表を完成版として扱わない。契約期限、金額、管理者、権限、窓口は、原本で確認してから確定する。

結論は単純だ。量が少なく原本がそろっているなら方法A、量が多く情報が散っているなら方法Bで下書きを作る。移行の現場では、方法Bで一覧を早く作り、重要項目だけ方法Aの精度で検品するのが一番進めやすい。